XTCと僕
- 湯浅
- 2018年9月29日
- 読了時間: 5分
「こんないい音楽、売れるわけない」
などと言ったら、
TV・ラジオ・雑誌に、
音楽の良し悪しを判断してもらってる人々に、
笑われるだろうか。
僕は本気で思っている。
「いい音楽が売れるわけではない」。
逆に「いい音楽だから売れない」
ことも往々にしてある。
「売れているすべてがいい音楽でもない」。
逆に「売れている音楽の大半は悪いもの」
と言っても過言ではない。
■ 僕が定義する「いい音楽」の
重要な要因として、
「キャッチーさ」と同等、もしくはそれ以上の
「音楽的なこだわり」が盛り込まれてる事
が挙げられる。
購買層の9割以上を占める
素人のリスナーにとって、
その要因は「聴き慣れない違和感」として、
第一印象に悪影響を及ぼし
潜在意識のなかで敬遠されがちになる。
経営サイドがそんな売りにくいものに
宣伝費をかけるわけもなく、
『TV・雑誌に良し悪しの判断をゆだねる』
ような素人の耳には入らないため
選ばれるわけない。
『こだわりのある音楽』
→ 購買層の9割以上を占める素人には
「聴き慣れない違和感」と認識される
→ 宣伝費をかけるリスクは当然冒さない。
イコール、「売れるわけがない」のである。
■ いっぽう「売れる」音楽とは、
前述の「引っ掛かり」になり得る
「野心的こだわり」その全てを取り除いた、
「一般ウケするようにパッケージ化」
されたもの。
『そうすれば必ず売れる』わけではないが、
『そうしなければ、まず売れることはない』。
自称、商業音楽家から聞いた話、
『個性とは、排除しても排除しきれず、
にじみ出るもの』なんだそうな。
き弁だな。だからクソだって言ってんだ。
※ 商業第一主義の音楽を聴いて育ち、
それにあこがれて音楽をやってる人間に
「こだわり」なんて発想があるわけがない。
「意識的に排除した」というより
「排除しようにも、モトから排除するものがない」
といったほうが正しいのかもしれない。
※ あえてデコボコを残したまま発表し
それでも売れてる人は尊敬できる。
ビートルズ然り。エルトンジョン然り。
わかりやすいところで、
aikoのメロディは変態的。
あれに宣伝費をかけた事務所は偉い。
※ わざと尖ったように見せる、
賢いやり方もある。
僕たちは芸術家肌です、っつって。
それっぽく見せるやり口。
サカナクションとかいうバンドのことを
言っているわけではないが・・・。
中後期のビートルズなんか、
むしろそれを狙ってる節もある。
■ よく『好みの問題』と言われるが、
それはちょっと違う。
「いい音楽」「くだらないもの」の違いは
こだわりの質と量のバランスであり、
きちんと数値化して説明できる話なので
残念ながら『好みの問題ではない』。
「くだらないもの」を好きなことについては、
それこそまさに『好みの問題』であろうから
否定はしないが、
残念ながら、
「くだらないもの」は「くだらないもの」
であることに変わりはないので、
『くだらないものがお好きなんですね』
と、隠さずに言わせてもらうことが多い。
世の中の大多数を占める人に理解できるよう、
芸術にとって一番大事なものを排除された、
マニュアル化、パッケージ化されたもの。
リクルートスーツで就職活動している
学生さんみたいなものである。
それを「悪いこと」だとは言わない。
生きるためにやっていることなので。
しかし『くだらないもの』
だとは言わせてもらう。
みんなに好かれるように、
個性を排除し、
わかりやすく、癖のないもの。
そういうのが好きというなら、
否定はしない。
それは『好みの問題』
であろう。
■ 表題の楽曲
Mayor of Simpleton / XTC
キャッチーだが、
興味深い「違和感」が残る曲。
XTCの芸術性は、
10代で、
エルトンジョン、ビリージョエル、ビートルズ、
の全オリジナルアルバムを網羅し、
他にも、
イエス、ジェリーフィッシュ、オサリバン等、
高尚なポップスを聴きまくっていた僕が、
経験した事のない異次元のものであった。
そしていまだに僕のNo.1であり続けるバンド
XTCの代表曲。
その「違和感」の元を、
簡単にさわりだけ解読すると、
・ ベース、
一般的な解釈からかけはなれて、
動きすぎ斬新すぎる一方で、
主旋律、ギターとバスドラと美しく連動。
計算つくされたメロディアスなライン。
・ デジタル主流の1980年代に、
アナログ楽器の代表格
「12弦ギター」の使用。
※XTCは様々な曲でよく使っている。
・ イントロからAメロまで、
サブドミナント、ドミナントの繰り返しのみ。
ちなみにセンテンスひとつひとつが短い。
イントロからサビまで20秒、
イントロから1番終わりまで55秒。
・ 終わり方、
10CC、I'm not in love からのアイデアか。
延々と伸び続けるボーカル。
ギター、ベース、コーラスのポリリズム。
等等。
こんな独特で挑戦的なサウンド、
1960~70年代の芸術的ポップスの創世記の
チャレンジが許された自由な時代ならともかく、
それらの実験が終わり、
パッケージ化の定義が制定された
1980~90年代に、売れるわけがない。
■ 前述の「違和感」、
楽曲に馴染み、理解が進んでくると、
抜けられなくなるほどにハマるよう
仕組まれている。
「最初から良さがわかる音楽なんて
後で必ず飽きるぜ?」
と鼻で笑っているかの如く。
実際にはXTCは、
お金で相当苦労したので
鼻で笑ってないと思われるが。
ただ、そんな苦境の折でも、頑固に
一生聴き続けられる音楽を提案し続けたのは
誠実さ以外の何モノでもない。
ミュージシャンズ・ミュージシャン
という言葉があるが、
音楽をやってる人や、
流行で聴いてないちゃんとしたリスナーからの
XTCへ対する尊敬はものすごいものがある。
僕に『音楽をやる以上、こうありたい』
と気づかせてくれた、唯一無二のバンドの話。
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